今日は南米のマリーシアについて。
- マリーシアとは何か
- サッカーで使われるマリーシアの意味
- マリーシアと反則の違い
- アルゼンチンの少年サッカーで実際に見たこと
- 日本人がマリーシアから学べること
「マリーシアって、ただの反則なの?」
サッカーの文脈で語られるマリーシアは、試合の状況を読み、相手との駆け引きを有利に進める「ずる賢さ」「抜け目のなさ」を表す言葉として使われます。
ただし、ユニフォームを引っ張ったり、反則されたように見せかけたりする行為まで正当化されるわけではありません。
私はアルゼンチンで子どものサッカー教室を見学したとき、日本ではあまり見たことのない練習に驚きました。
この記事では、その体験をもとに、マリーシアの意味と、フェアプレーとの境目を考えます。
マリーシアは「反則そのもの」ではなく、試合を読む力・駆け引き・抜け目のなさを含む言葉です。
ただし、危険なプレーや審判を欺く行為はルール上の反則・警告対象になります。だからこそ、マリーシアは「ずるさ」と「賢さ」の境目を考えるうえで面白い言葉なんです。
マリーシアとは?サッカーで使われる意味
マリーシアは、スペイン語・ポルトガル語の malicia から来た言葉です。
日本語で説明すると、だいたいこのあたりのニュアンスです。
・ずる賢さ
・抜け目のなさ
・駆け引き
・相手の裏を読む力
・状況を見てうまく立ち回る力
辞書的には「悪意」という意味もありますが、それだけではありません。
スペイン王立アカデミーの辞書でも、malicia には悪意に近い意味だけでなく、鋭さ・機転・抜け目のなさに近い意味も載っています。
つまり、サッカーで使うときのマリーシアは、単純に「悪いことをする」というより、相手より一歩先に状況を読む力に近いです。
マリーシアと反則は同じではない


ここは最初に分けておきたいです。
マリーシアは、何をしてもよいという意味ではありません。
相手の動きを読み、体の入れ方や試合の流れを考えることは、サッカーに必要な駆け引きです。
一方で、相手をつかんで動きを妨げたり、反則されたように見せかけたりする行為は、競技規則上の反則・警告対象になります。
たとえばIFABの競技規則 第12条では、相手をつかむ行為は直接フリーキックの対象になり、けがやファールを装って審判を欺こうとする行為は反スポーツ的行為として警告対象になります。
つまり、ルールの範囲内で発揮する賢さと、ルールを破る行為は別物です。
この記事で紹介するのは、私がアルゼンチンのサッカー教室で実際に見た一例です。アルゼンチンや南米のすべての指導者が、同じ教え方をしているという意味ではありません。
アルゼンチンの少年サッカーで見たマリーシア
アルゼンチン生活も板についてきた頃、ブエノスアイレスで子どものサッカー教室を参観していました。
うちの子どもは当時、幼稚園生。
いつもは子どもたちがワイワイしながら、パスとかシュートとかを練習しているんですが、その日は何かいつもと違いました。
コーチが子どもたちを集めて、ペナルティエリアの外側で何かを教えている。


最初は「何の練習だろう?」と思って見ていました。
でも、よく見ると、二人一組になって、エリア外ギリギリのところで相手のビブスを引っ張ったり、体を入れたりしている。


子供のサッカー教室。ペナルティエリア外でいかに相手にファールをするか(やむを得ない場合)を練習。
— しずろく🇦🇷南米 (@Shizuroku1) January 24, 2023
このあたりのmalicia(ずるがしこさ)はブラジルいるときも感じたけど、ここアルゼンチンも同じでした。
日本のサッカー教室ではたぶんない。
当時は「ファールの練習」と表現しましたが、今あらためて考えると、これは単に「反則をしろ」という話ではなく、危ない場面でどこまで相手を進ませないか、どこで止めるかという守備の判断に近いものでした。
サッカーに詳しくない方へ補足:
ペナルティエリア内で守備側の反則があると、相手にPKが与えられることがあります。だから守備側にとって、エリア内へ侵入される前にどう対応するかはかなり重要です。



はは~ん。
こういうところから教えるのか……!
私はそう思ったのですが、横にいた妻は「え、そんなこと教えるの?」という顔。
この反応の差も、かなり面白かったです。
幼少期から身につける「駆け引き」


そういえば、昔ブラジルに住んでいたときも、子どものサッカー教室で似たような光景を見たことがありました。
小学生くらいの子でも、相手との距離の取り方、体の入れ方、審判からの見え方をかなり意識している。
日本の少年サッカーで私が見てきた空気とは、やっぱり少し違う。
もちろん、これは私が見た範囲の話です。日本にも駆け引きを教える指導者はいるでしょうし、南米にもフェアプレーを大事にする指導者はたくさんいるはずです。
それでも、アルゼンチンやブラジルで見たサッカーには、勝負の中でどう生き残るかという感覚が、かなり早い段階から染み込んでいるように感じました。
マリーシアは「手段を選ばない」ではなく「試合を読む力」
マリーシアという言葉を聞くと、「汚いプレー」「反則」「ずる」だけをイメージする人もいると思います。
でも、現地で見ていると、もう少し複雑です。
たとえば、勝っている時間帯に試合のテンポを落とす。相手が焦っているときに、あえてリズムを変える。審判との距離感、相手の感情、会場の空気まで見る。
これら全部を「反則」と呼ぶのは少し違う。
むしろ、勝負の流れを読む力です。
ただし、そこに危険なプレーやシミュレーションが混ざると、当然アウトです。
だからこそマリーシアは、単純に「良い・悪い」で切れない言葉なんですよね。
スアレスのハンドに見る「やりすぎ」と「勝負への執念」
マリーシアを語るときに、極端な例としてよく思い出すのが、2010年南アフリカW杯のウルグアイ代表ルイス・スアレスのハンドです。
これは明らかにルール違反です。美談にする話ではありません。
でも一方で、あの一瞬に「何としてでもゴールを防ぐ」という勝負への執念が出ていたのも事実です。
スアレスがハンドで決勝点を阻止し、PK戦で勝利した日から今日で12年。ウルグアイとガーナはこの日から因縁の相手に。W杯伝説のひとつ。最近のことのように思えるけどもう12年か…ちなみにこの戦いの結果ウルグアイはベスト4に進出。
— 酒井琢磨 スポーツプランナー (@takuma_sports14) July 2, 2022
pic.twitter.com/S2eKGofhY9
繰り返しますが、これは「やっていい」という話ではありません。
ただ、南米サッカーの勝負観を考えるうえで、マリーシアという言葉が持つ重さは無視できないなと感じます。
中南米の日常にもあるマリーシア的な感覚


このマリーシア的な感覚は、サッカーだけでなく日常生活にも顔を出します。
たとえば、レストランの会計で何かが抜けていて、本来より安くなっているとき。
日本人的には、ついこう言いたくなります。



お会計、金額間違ってますよ!
でも現地では、「向こうが間違えたんだから、こちらは悪くない」と考える人もいます。
もちろん、これは日本でもあります。南米だけの話ではありません。
ただ、アルゼンチンやブラジルで暮らしていると、こういう「その場をどう切り抜けるか」みたいな感覚に出会う機会は多かったです。
ポルトガル語では、Dar um jeito、つまり「なんとかする」「うまくやる」みたいな言い方があります。
ブラジルでは Quebrar um galho という表現もよく聞きました。直訳すると「枝を折る」ですが、困った場面で何とか助ける、間に合わせる、というニュアンスです。
このあたりの「たくましさ」は、南米生活で何度も感じました。
アルゼンチンの家の電気工事で、そのたくましさに笑ってしまった話はこちら。


日本人がマリーシアから学べること


日本は、スポーツでも仕事でも、クリーンさやフェアプレーを大事にする社会だと思います。
これは本当に誇れることです。



そんな日本人を好きでいてくれる外国の方も、たくさんいます。
一方で、海外で生活していると、フェアであることだけでは乗り切れない場面もあります。
言われた通りに待っていたら、永遠に順番が来ない。空気を読んで遠慮していたら、話が進まない。正論だけ言っていても、現場が動かない。
そういうときに必要なのは、相手をだますことではなく、状況を読み、自分から取りに行くたくましさです。
マリーシアという言葉には、その危うさと強さが両方入っている気がします。
だから私は、マリーシアを単純に悪いものとは思いません。
ただし、仕事や人生では、相手を傷つけたり、だましたりする方向に使ってはいけない。
フェアであることを土台にしながら、もう少したくましく生きる。
これくらいが、私にはちょうどいい落としどころだと思っています。
まとめ:マリーシアは「ずるさ」と「賢さ」の境目にある


結局、違いを知るのが面白い。
マリーシアとは、サッカーで語られる「ずる賢さ」や「駆け引き」のことです。
でも、それは反則そのものではありません。
試合の流れを読む力、相手の心理を読む力、ぎりぎりの場面で判断する力。そういう勝負の知恵も含んでいます。
一方で、危険なプレーや審判を欺く行為はルール違反です。
だからこそ、マリーシアは面白い。
ずるさと賢さの境目にある、南米サッカーらしい言葉だと思います。
アルゼンチンで子どものサッカー教室を見ながら、私は「フェアであること」と「たくましくあること」の両方を考えさせられました。
結局、海外で暮らす面白さって、こういう自分の常識が揺れる瞬間にあるんですよね。
FAQ:マリーシアについてよくある質問
マリーシアとは何ですか?
サッカーでは、試合の状況を読み、相手との駆け引きを有利に進める「ずる賢さ」や「抜け目のなさ」を表す言葉として使われます。文脈によっては悪意や狡猾さという意味にもなるため、常に肯定的な言葉とは限りません。
マリーシアと反則は同じですか?
同じではありません。ルール内で相手の動きを読み、立ち位置や体の使い方を工夫することは駆け引きです。一方、相手をつかむ行為や反則を装う行為は、競技規則上の反則・警告対象になります。
マリーシアは南米だけの考え方ですか?
駆け引きや試合運びは、南米に限らずサッカー全般にあります。ただし「マリーシア」という言葉は、南米サッカーを説明する日本語の記事などでよく使われています。本記事では、筆者がアルゼンチンやブラジルで見た体験を紹介しています。
子どもにマリーシアを教えるのは問題ありませんか?
状況判断や相手の動きを読む力を教えることと、危険な行為や反則を勧めることは別です。子どもの安全とフェアプレーを優先し、具体的な指導方法は所属チームの指導者に確認してください。
アルゼンチン文化を、言葉からもう少し深掘りしたい方はこちらもどうぞ。










